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北の旅  第59回「月夜の闇」

 今夜の宿は、十勝のはずれの新得という町にある。今いる釧路からは100キロ以上離れているが、東西に伸びた道東自動車道を利用すれば2時間はかからないだろう。早朝から現在に至るまでかなりの距離を走っている。体力は限界に達していたが、あまり遅くなっては迷惑だろうという思いと、宿の人たちに早く逢いたいという気持ちだけが僕を馬車馬のように走らせていた。北海道の夜は、暗い。街灯の少ない漆黒のハイウェイを、出口の見えない長いトンネルを、おびえながら走り続けた。

 命からがら高速を降り、宿の近くに辿り着いた時には8時半を回っていた。記憶していた道を走り続けたが、宿が見つからない。まばらだった街灯さえも姿を消し、道はどんどん細くなっていく。さすがにヤバイな……不安がマックスに達した時、なぜか僕はバイクを路肩に停め、エンジンを切っていた。目を閉じて深呼吸した。急いでいる時ほど亀になる……普段僕が心掛けていることを実践してみたのだった。

 ゆっくりと目を開けた。見事な闇。無音の世界。遠い町灯かりと半分雲のかかった月明かりがぼんやり見えはするが、それ以外は真っ黒に塗りつぶされていた。本能的に、一歩先へ進むことすらできない。北海道に来て、本当の闇と、その恐ろしさを知った。

 動物なら夜目が利くのだろうが、人間の目はその点、退化してしまった。だが、人間には文明の利器というものがあるのだ。僕はケータイの地図アプリとGPSを起動させ、目的地と現在地を画面上で確認してみた。すると驚いたことに、そのふたつはそれほど離れていなかった。今走っている道をそのまましばらく進むと、右手に宿があることがわかった。行ってみると、果たして宿はあった。茂みに隠れたわかりづらい入口に、目印となるドラム缶が並んでいた。これこそが今夜の宿、「ドラム館」である。

               つづく